濵田暁彦医師 コラム No.107
2021/01/20(与謝野町くすぐるカード会発行「くすぐる」 vol.239 2021年2月号掲載)

『「富岳」がコロナ感染シミュレーションで示した事とは?』

2020年6月、コロナの第1波がやや沈静化した頃、日本の理化学研究所(=理研)の数あるセンターの1つ、計算科学研究センター(神戸市ポートアイランド)のスーパーコンピューター=略してスパコンの「富岳(ふがく)」(=富士山の別名)がスパコンの性能を競う複数の世界ランキングで1位になったと報道されました。 先代の「京(けい)」は1秒間に1京回(1兆の1万倍;0が16個付く単位)の計算スピードを持つ事から名付けられましたが、2009年当時の民主党政権時代に事業仕分けで「世界2位じゃダメですか?」とつっこまれ予算が削減される中、2011年の計算速度の世界ランキングで1位を獲得したことが話題になりました。
 富岳は京の40倍の計算スピードを持つだけでなく、様々な研究に役立つソフトウエアを京の100倍の能力で扱うことができると言われています。その性能とは、これまで「京で1年間かかっていた結果が数日で出る。」というスピードで非常に実用的です。今後は医療や創薬、生命科学、気象、地震、人工知能といった様々な分野で活用され、経済発展と社会的課題の解決に貢献すると期待されています。
 この富岳ですが、コロナの感染対策に役立てようと試験運用の開始当初(2020年3月)からすでに活用されており、これまでにも様々なシミュレーション(模擬実験)結果が発表されています。
 理研の計算科学研究センター(R-CCS)のホームページ(トップ「富岳」について【特集】新型コロナウイルスの克服に向けて実施している研究課題と成果室内環境におけるウイルス飛沫感染の予測とその対策)を見てみましょう。不織布・ウレタン・布マスクの性能の違いや、学校やオフィス・四人がけテーブル、タクシーや電車・航空機、コンサートホールやカラオケボックス・病室内・野外等での換気状況や飛沫の広がり方などのアニメーションを誰でも閲覧できます。
 例として、人の口から出される「つば=飛沫(ひまつ)」の中の、比較的「大きな飛沫」と小さな「エアロゾル」に色分けして周りにどの様に広がるかというシミュレーションでは、大きな飛沫は1メートル以内に落ちますがエアロゾルは空気中を漂うことが見て取れます。マスクの種類では一般的に布やウレタンは20-30%程度と低いフィルター捕集能力ですが、不織布では70%程度であること、さらに細かく見ると布でもYシャツ生地を2-3枚重ねたり、ガーゼの捕集能力はウレタンを上回り不織布に匹敵するということが示されています。またマスクをしていてもワキ漏れがあったり、「エアロゾル」の吐き出しや吸い込みに関してはマスクの効果は限定的なことや、湿度が低いほどエアロゾルがより多く空中を漂うことも示されており、それらを合わせて考えると「冬場に暖房で乾燥して換気の悪い室内では、マスクをしていてもエアロゾルによる空気感染が心配で、マスクに加えて換気や加湿も含めた感染対策が必要になる。」という知識を与えてくれます。ここ最近の爆発的感染増加との関連性を探る手がかりになるかも知れません。このように「富岳」は私たちの目の前の疑問に一つずつ小さな答えを示してくれているのです。

執筆
濵田 暁彦

1974年京都府宮津市生まれ。1993年宮津高校卒業。1年間浪人生活を京都駿台予備校で送り翌年京都大学医学部入学。2000年京都大学医学部卒業後、京都大学医学部附属病院内科研修を1年行う。2001年京都桂病院内科に研修医として赴任。2002年京都桂病院消化器内科医員となり、2007年同副医長。2010年故郷である丹後中央病院消化器内科部長として赴任。現在丹後中央病院消化器内科主任部長兼内視鏡室室長、他に京都大学医学部臨床講師(2015年〜)、宮津武田病院非常勤を務める。モットーは「楽な胃カメラ」「痛くない大腸カメラ」。早期癌の診断治療(拡大内視鏡・食道胃大腸ESD)、胆膵管内視鏡ERCP、超音波内視鏡EUS、EUS-FNA等が専門。機能性胃腸症:FDや過敏性腸症候群:IBS、便秘などで苦しむ患者さんの治療や、様々な不定愁訴に対しても西洋医学(総合内科)と漢方医学を融合させた医療を実践中。また老衰や認知症に伴う肺炎などの終末期患者さんの看取りや、各種がんの終末期緩和ケア&看取りをこれまで多くの患者さんに行い、安らかな最期を迎えられるようチーム医療で取り組んでいる。

所属学会・認定医、専門医
日本内科学会総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会指導医・専門医、日本ヘリコバクター学会認定医、日本膵臓学会、日本胆道学会、日本臨床細胞学会、日本食道学会、日本肝臓学会、日本腹部救急医学会、日本時間生物学会、日本臨床腸内微生物学会、日本東洋医学会