濵田暁彦医師 コラム No.104
2020/10/20(与謝野町くすぐるカード会発行「くすぐる」 vol.238 2020年11月号掲載)

「ストレス」の話:その2-日本人は「セロトニン」脳内濃度が低い?


「ストレス」がかかると体はストレスに対して様々な反応をおこします。副腎皮質の「コルチゾール」や副腎髄質の「アドレナリン」「ノルアドレナリン」などのホルモンの分泌が増えて体はストレスに立ち向かいます。また精神面では慢性的なストレスは脳内の神経伝達物質「セロトニン」を減らします。
 「セロトニン」は別名「幸せホルモン」とも呼ばれますが、脳内ではホルモンではなく「神経伝達物質」として働きます。他の神経伝達物質「ドーパミン(快感・喜び)」や「ノルアドレナリン(意欲・集中力)」の働きを調整し、精神の安定を保ち「落ち着き」をもたらし、心と体のバランス、睡眠と覚醒のバランスなどを調整する大事な役割を担っています。
 ストレスによりこの「セロトニン」の働きが低下すると不安症や抑うつ症に陥るために、脳内のセロトニン濃度を高めるためのお薬SSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)が世界中でうつ病の薬として多用されています。またこのセロトニン再取り込みを行うトランスポーター(輸送体)の遺伝子には輸送能力の高いL型と、能力の低いS型があり、この遺伝子が組み合わされて「LL型」「LS型」「SS型」の3つのタイプに分けられます。そして実際に持っている輸送体のタイプがL型の人はセロトニン脳内濃度が高く、S型の人はセロトニン脳内濃度が低いのです。このセロトニン輸送体の型は人種によって大きく異なり、タチアナ・ノスコヴァらによるとコケージャン(ヨーロッパの人)にはL型の比率が高く、アジア人にはS型の比率が高いことが示されています。なかでも日本人はセロトニン濃度の高いL型が19%と世界で最も少なく、セロトニン濃度の低いS型が81%と世界で最も多いのです。ちなみにコケージャンのクロアチア人はL型62%、S型38%です。日本人の8割を占めるS型の人は悲観的なのでしょうか?
 確かにS型の人は抑うつ状態になりやすい弱さを持ってはいますが、同時にS型の人は物事に敏感な人であり、先々のことまで気が配れる人でもあります。そのためS型の人は知能が高く、目先の利益よりも将来の利益のためにがんばる意思力が強い人なのです。
 敏感なS型の日本人は「ひ弱な蘭(らん)」の花に例えられます。蘭はストレスを加えられるとすぐに枯れてしまいますが、最適な環境では大輪の花を咲かせます。同様にS型の日本人は敏感なために変化を嫌いますが、もし今の環境でしおれているようならば、自分が「ひ弱だ」と嘆く前に思い切って環境を変えてみて、ストレスの少ない環境に変われば鈍感なL型(=ストレス下でもたくましく育つ「たんぽぽ」に例えられます)よりもはるかに大きな成功と喜びを手にすることができるでしょう。次回は具体的にセロトニンを増やす方法を考えてみましょう。

参考図書:橘玲「もっと言ってはいけない」(新潮新書)

執筆
濵田 暁彦

1974年京都府宮津市生まれ。1993年宮津高校卒業。1年間浪人生活を京都駿台予備校で送り翌年京都大学医学部入学。2000年京都大学医学部卒業後、京都大学医学部附属病院内科研修を1年行う。2001年京都桂病院内科に研修医として赴任。2002年京都桂病院消化器内科医員となり、2007年同副医長。2010年故郷である丹後中央病院消化器内科部長として赴任。現在丹後中央病院消化器内科主任部長兼内視鏡室室長、他に京都大学医学部臨床講師(2015年〜)、宮津武田病院非常勤を務める。モットーは「楽な胃カメラ」「痛くない大腸カメラ」。早期癌の診断治療(拡大内視鏡・食道胃大腸ESD)、胆膵管内視鏡ERCP、超音波内視鏡EUS、EUS-FNA等が専門。機能性胃腸症:FDや過敏性腸症候群:IBS、便秘などで苦しむ患者さんの治療や、様々な不定愁訴に対しても西洋医学(総合内科)と漢方医学を融合させた医療を実践中。また老衰や認知症に伴う肺炎などの終末期患者さんの看取りや、各種がんの終末期緩和ケア&看取りをこれまで多くの患者さんに行い、安らかな最期を迎えられるようチーム医療で取り組んでいる。

所属学会・認定医、専門医
日本内科学会総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会指導医・専門医、日本ヘリコバクター学会認定医、日本膵臓学会、日本胆道学会、日本臨床細胞学会、日本食道学会、日本肝臓学会、日本腹部救急医学会、日本時間生物学会、日本臨床腸内微生物学会、日本東洋医学会