最近は何かとストレスが多い時代で、うつや不眠症、体のあちこちの痛みや不調を訴える人が増えています。
脳内伝達物質の「セロトニン」は心の安定を得るために最も重要な物質です。他の脳内伝達物質は、快感を感じさせる「ドーパミン」も多すぎると各種の「依存症」を、集中力を高める「ノルアドレナリン」も多すぎると「パニック発作」を引き起こしてしまうのですが、これらの物質が多くなりすぎないように調節しているのがセロトニンです。
セロトニンの脳内での作用はこのほかにも、「目覚め」を良くしたり、「痛み」を軽減したり、自立神経に働いて血圧や代謝を上げたりと多様です。逆にストレスが長引き脳内セロトニンが減少してしまうと、不眠や目覚めの悪さ、食欲低下などのうつ病を発症したり、痛みに過敏になりすぎたり、各種「依存症」や「パニック発作」などが引き起こされてしまいます。また脳とは別に、体の中で最も多くのセロトニンが作られている場所は実は「腸」で、セロトニンは腸の蠕動運動を良くしたり、血液が固まる「凝固」や血管の収縮に働いたりと体じゅうで大活躍しています。しかし脳細胞には「血液脳関門」という特殊なバリアがあるため、セロトニンは直接脳細胞の中には入れません。
脳細胞の中でセロトニンを増やすためには、セロトニンの原料で脳にも入ることのできる「トリプトファン」という必須アミノ酸を摂ることが有効です。トリプトファンを多く含む食材としては、豆腐、納豆、味噌、醤油などの大豆製品や、チーズ、牛乳、ヨーグルトなどの乳製品などで、ゴマ、バナナ、卵、ピーナツにも含まれています。
日本のセロトニン研究の第一人者である有田秀穂先生は、東京上野に「セロトニン道場」という生活習慣の改善でセロトニンを増加させる訓練所を開いておられます。
セロトニンをSSRIなどの薬で増やすのではなく、日頃の生活習慣で増やすことができるというのが有田先生の長年の研究の成果です。その生活習慣とは、
1.リズム運動
2.太陽の光
3.スキンシップ
の3つで、1.は 疲れない程度の5分から30分までのリズミカルな運動を毎日集中して行うことが重要で、ウォーキング(犬の散歩ではダメ)、自転車こぎ、スクワットや、座禅、読経、ヨガ、太極拳などの呼気を意識した呼吸法や、「ガム噛み(20分間)」なども脳内のセロトニンを増加させることが明らかにされています。
2.の太陽の光は朝の目覚めを良くしたり、散歩のウォーキング中にしっかりと浴びることでセロトニンを増やし、3.のスキンシップは、動物たちの「毛づくろい=グルーミング」がセロトニンを増やしリラックス効果があることから勧められています。
まずは1.と2.から始め、しかし短くても毎日継続して3ヶ月ほど続けることが重要です。3ヶ月続けることでセロトニンに関する遺伝子までもが変化して、脳内セロトニンが高いレベルで維持されるようになり、気持ちの切り替えや感情のコントロールが上手になるだけでなく、他人への共感の感情までもが生まれる様になるのです。
参考) 有田秀穂「共感する脳」(PHP新書)