濵田暁彦医師 コラム No.105
2020/11/20(与謝野町くすぐるカード会発行「くすぐる」 vol.239 2020年12月号掲載)

「ストレス」の話:その3-幸せ物質「セロトニン」は増やせるのか?


最近は何かとストレスが多い時代で、うつや不眠症、体のあちこちの痛みや不調を訴える人が増えています。
 脳内伝達物質の「セロトニン」は心の安定を得るために最も重要な物質です。他の脳内伝達物質は、快感を感じさせる「ドーパミン」も多すぎると各種の「依存症」を、集中力を高める「ノルアドレナリン」も多すぎると「パニック発作」を引き起こしてしまうのですが、これらの物質が多くなりすぎないように調節しているのがセロトニンです。
 セロトニンの脳内での作用はこのほかにも、「目覚め」を良くしたり、「痛み」を軽減したり、自立神経に働いて血圧や代謝を上げたりと多様です。逆にストレスが長引き脳内セロトニンが減少してしまうと、不眠や目覚めの悪さ、食欲低下などのうつ病を発症したり、痛みに過敏になりすぎたり、各種「依存症」や「パニック発作」などが引き起こされてしまいます。また脳とは別に、体の中で最も多くのセロトニンが作られている場所は実は「腸」で、セロトニンは腸の蠕動運動を良くしたり、血液が固まる「凝固」や血管の収縮に働いたりと体じゅうで大活躍しています。しかし脳細胞には「血液脳関門」という特殊なバリアがあるため、セロトニンは直接脳細胞の中には入れません。
 脳細胞の中でセロトニンを増やすためには、セロトニンの原料で脳にも入ることのできる「トリプトファン」という必須アミノ酸を摂ることが有効です。トリプトファンを多く含む食材としては、豆腐、納豆、味噌、醤油などの大豆製品や、チーズ、牛乳、ヨーグルトなどの乳製品などで、ゴマ、バナナ、卵、ピーナツにも含まれています。
 日本のセロトニン研究の第一人者である有田秀穂先生は、東京上野に「セロトニン道場」という生活習慣の改善でセロトニンを増加させる訓練所を開いておられます。
 セロトニンをSSRIなどの薬で増やすのではなく、日頃の生活習慣で増やすことができるというのが有田先生の長年の研究の成果です。その生活習慣とは、
1.リズム運動
2.太陽の光
3.スキンシップ
の3つで、1.は 疲れない程度の5分から30分までのリズミカルな運動を毎日集中して行うことが重要で、ウォーキング(犬の散歩ではダメ)、自転車こぎ、スクワットや、座禅、読経、ヨガ、太極拳などの呼気を意識した呼吸法や、「ガム噛み(20分間)」なども脳内のセロトニンを増加させることが明らかにされています。
 2.の太陽の光は朝の目覚めを良くしたり、散歩のウォーキング中にしっかりと浴びることでセロトニンを増やし、3.のスキンシップは、動物たちの「毛づくろい=グルーミング」がセロトニンを増やしリラックス効果があることから勧められています。
 まずは1.と2.から始め、しかし短くても毎日継続して3ヶ月ほど続けることが重要です。3ヶ月続けることでセロトニンに関する遺伝子までもが変化して、脳内セロトニンが高いレベルで維持されるようになり、気持ちの切り替えや感情のコントロールが上手になるだけでなく、他人への共感の感情までもが生まれる様になるのです。

参考) 有田秀穂「共感する脳」(PHP新書)

執筆
濵田 暁彦

1974年京都府宮津市生まれ。1993年宮津高校卒業。1年間浪人生活を京都駿台予備校で送り翌年京都大学医学部入学。2000年京都大学医学部卒業後、京都大学医学部附属病院内科研修を1年行う。2001年京都桂病院内科に研修医として赴任。2002年京都桂病院消化器内科医員となり、2007年同副医長。2010年故郷である丹後中央病院消化器内科部長として赴任。現在丹後中央病院消化器内科主任部長兼内視鏡室室長、他に京都大学医学部臨床講師(2015年〜)、宮津武田病院非常勤を務める。モットーは「楽な胃カメラ」「痛くない大腸カメラ」。早期癌の診断治療(拡大内視鏡・食道胃大腸ESD)、胆膵管内視鏡ERCP、超音波内視鏡EUS、EUS-FNA等が専門。機能性胃腸症:FDや過敏性腸症候群:IBS、便秘などで苦しむ患者さんの治療や、様々な不定愁訴に対しても西洋医学(総合内科)と漢方医学を融合させた医療を実践中。また老衰や認知症に伴う肺炎などの終末期患者さんの看取りや、各種がんの終末期緩和ケア&看取りをこれまで多くの患者さんに行い、安らかな最期を迎えられるようチーム医療で取り組んでいる。

所属学会・認定医、専門医
日本内科学会総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会指導医・専門医、日本ヘリコバクター学会認定医、日本膵臓学会、日本胆道学会、日本臨床細胞学会、日本食道学会、日本肝臓学会、日本腹部救急医学会、日本時間生物学会、日本臨床腸内微生物学会、日本東洋医学会