メニエール病
今から約140年前にめまいが耳の病気から引き起こされることを初めて報告したのは、フランスの医師メニエールでした。
これに由来し、現在では
(1) めまいを繰り返す。
(2) 耳鳴、難聴が反復、消長する。
(3) 同様の症状を起こす既に原因のわかった病気を除く。
という3項目を満たすものをメニエール病と定義されています。
(注;(1)または(2)のない亜型もあり;後述) また剖検により病気の本態は、内リンパ水腫(内耳にある内リンパ液が溜まりすぎた状態)ということがわかっています。
しかし一般には、めまいを繰り返す疾患をメニエール症候群と呼んでいることも多く、この中には他疾患も含まれている可能性があり、先に述べたメニエール病とは必ずしも一致しない現状があります。
1.疫学
好発年齢は30〜40歳、やや女性に多く、性格的には几帳面、内向的、悲観的、知識欲旺盛な人が 多いとされます。有病率は10万人当たり約16人。罹患側に左右差はなく、両側例が約30%あるとされています。
2.病因(まだ定かではない)
内耳の形態異常・機能異常説 、 自律神経系の緊張異常説 、 アレルギー説 、 免疫異常説 、 塩分・水分代謝異常説 、 ストレス説
3.症状(めまい、難聴、耳鳴)
めまい:嘔気・嘔吐などの自律神経症状を伴う回転性めまい発作が多い。
耳鳴、難聴、耳閉感めまい発作前に増強し(前兆)、めまいの改善とともに改善することが多い(消長)。頭痛、頭重感、肩こり
この様なめまい発作を繰り返す度に不可逆的な難聴、耳鳴が増悪するのが典型的メニエール病の経過です。
蝸牛型メニエール病 | 3症候のうちめまいのないもの(経過中に80%が典型的メニエール病に移行) |
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前庭型メニエール病 | 難聴、耳鳴のないメニエール病(典型的メニエール病移行は20%のみ) |
両側メニエール病 (重症メニエール病) | 高齢発症者に多い、罹病期間が長いほど多い、難聴の程度が高度、神経症的傾向が強い、予後不良である |
4.メニエール病の検査
典型例の診断は問診のみでも容易ですが、初発例、非典型例の診断及び経過の把握、重症化のチェックには耳鼻科的な聴力検査、めまいの検査が必須です。
聴力検査 | 中、低音障害型難聴(初期、典型例)、聴力の変動、補充現象陽性(大きな音がより大きく聴こえる現象;音が響いて聴こえる等)、罹患側への転倒傾向、水平回旋混合性眼振、罹患耳の内耳障害 |
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平衡機能検査(めまい、平衡感覚の検査) | グリセロールテスト(聴覚系) フロセミドテスト(平衡神経系) |
内リンパ水腫推定試験 | 高齢発症者に多い、罹病期間が長いほど多い、難聴の程度が高度、神経症的傾向が強い、予後不良である |
電気生理学的検査 | |
蝸電図検査 |
5.治療
生活指導 | めまい発作期は安静を保ち、めまいがおさまれば速やかに普通の生活に戻す。過労、睡眠不足、ストレスを避ける。喫煙、飲酒の制限。 |
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好ましくない食品 | 塩分、水分の過剰摂取、カフェイン、アルコール、生成炭水化物 |
薬物治療 | 急性期:7%重曹水の注射、制吐剤、鎮静剤 間歇期:ビタミン剤、血管拡張剤、精神安定剤、浸透圧利尿剤、自律神経調節剤、抗ヒスタミン剤、ステロイドホルモン、漢方薬 など |
鼓室内注入療法 | ストレプトマイシンの注入 |
手術 | 保存的治療で治まらないめまいに対して行う 内リンパ嚢開放術(シャント手術) 前庭神経切断術(めまいの原因となる神経を切断) |
耳鼻咽喉科 田中寛