味覚障害
最近「味がしなくなった」「食べ物の味がおかしい」といった味覚障害を訴える患者さんが増えています。 好発年齢は50〜60歳をピークとし、高齢者に多いのですが、最近では若い年代にも多くみられます。
味覚は主に舌に存在する味蕾(みらい)という味覚受容器に味物質が結合し、この刺激が脳神経に伝えられることで感じられます。そのため味覚障害をひきおこす原因は障害部位によりいろいろで、舌の炎症、口腔内の乾燥、感冒などウィルス感染、頭部外傷、貧血などの全身疾患、ある種の中耳炎、腫瘍、神経疾患、においがしないことに起因する風味障害、心因性のものなどもあげられます。主な原因は薬剤性、特発性(原因が検査で特定できない)、亜鉛欠乏性とされています。亜鉛は味蕾を形成する成分のひとつで、これが不足すると味蕾が変性し、味覚障害が起こるとされています。
薬剤性味覚障害は降圧剤、冠血管拡張剤、動脈硬化治療剤、解熱鎮痛剤、抗生剤、抗癌剤など多種多様の薬剤で起こり、特にいろいろな病気のために薬を内服している高齢者で増加しています。このうちの約半分は、薬物の作用により亜鉛が過剰に排泄されるためであると考えられています。
亜鉛欠乏性味覚障害は、最近特に食生活の問題(過度のダイエット、偏食、コンビニ弁当、インスタント、加工食品への依存)が指摘されています。若い世代の味覚障害はこれが主です。特発性味覚障害も潜在性に亜鉛が不足した状態が多くあるとされ、亜鉛に関与すると考えられる味覚障害は約7割あるという報告もあります。 治療としては原疾患の治療は勿論ですが、主に亜鉛製剤の内服を行います。
また食生活の改善も大切で、亜鉛を多く含んだ食品(特に貝のカキ)を心がけて食べるようにします。また可能ならば原因と思われる薬剤を中止または他の薬剤に変更します。治療により3〜6カ月で60〜70%は改善しますが、障害が長くなるほど治りにくく、特に高齢者ではその傾向が強いので早期治療が必要です。
味覚障害でお困りの方、一度専門医にご相談下さい。
耳鼻咽喉科 田中寛